エリスリトールが心臓発作や脳卒中リスクを増やす!?本当に?見解を述べます!
- 2023/3/2
最近、ネットでざわついている「エリスリトールの副作用」のニュース(2023/2/28)。
「カロリーゼロの甘味料、心臓発作や脳卒中リスク増大と関係 米研究」CNN.CO.JP
私のところにもこれについてたくさんの問い合わせがありました。
なぜなら、私は甘味料については、ラカントSやエリスリトールをずっと推していたからです。
そこで、今回はこのエリスリトールの副作用について書かれた原著の論文(Nat Med. 2023 Feb 27. doi: 10.1038/s41591-023-02223-9)について、私の見解をまとめていきましょう。
ニュースサイトは煽り記事が多い
今回の研究は世界中で大々的にネットニュースに取り上げられていました。
その理由は、nature medicineという有名なジャーナルに掲載されたこともあるでしょう。
また、安全だと思っていたエリスリトールまでもが、他の代替甘味料と同様に、「副作用がある」というショッキングな報告だったこともあります。
しかし、原著論文のアブストラクト(要約)だけではよくわかりませんので、39.95ドルで論文を購入し、その詳細を読んでいくと、、これを引用したニュースサイトの記事はただ煽っているだけだった、というのが私の正直な感想でした。
というのは、ネットニュースでは、どこも、あたかもエリスリトールを摂っているとやばいという印象づけが強かったからです。
そもそも糖尿病など基礎疾患のある人は血漿エリスリトール値が高い
しかし、論文では、「血漿エリスリトール濃度が高い人は、心血管イベント(MACE)の発生リスクを増やす」というものです。
これは別に新しい報告ではなく、このことは以前から知られています。
なぜなら、エリスリトールは、外から摂取する外因性のものだけでなく、体内で合成される内因性のものも存在し、ある病気の時にこの内因性による血漿エリスリトール濃度が生理的にどうしても高くなるからです。
実際に、血糖調節障害または糖尿病や糖尿病網膜症の人は、血漿エリスリトールレベルが高いことが報告されています。(PLoS One. 2010; 5(11): e13953 ; Diabetes. 2013 Dec;62(12):4270-6 ; Diabetes. 2016 Apr;65(4):1099-108 ; J Biol Chem. 2019 Nov 1;294(44):16095-16108)
さらに、内因性の血清エリスリトール濃度が高いことは、心血管疾患の発症と関係していることがも報告されています。(Curr Opin Clin Nutr Metab Care . 2020 Sep;23(5):296-301)
では、なぜこのような病気があるとき、体内のエリスリトール合成が高まっているのでしょう?
もともと体内のグルコースの代謝(解糖系)では、同時にペントースリン酸経路にも迂回し、このとき酸化ストレスに対抗するNADPHが産生されるわけですが、このときの代謝産物としてエリスリトールが合成されているのです。(Proc Natl Acad Sci U S A . 2017 May 23;114(21):E4233-E4240)
そして、高血糖や脂肪過多などの状態では、ペントースリン酸経路の最初の酵素であるG6PDが過剰発現するため、それによってエリスリトール合成が高まるといわれています。(Drug Dev Res. 2010 May 1;71(3):161-167)
血漿エリスリトール濃度が高い原因はおもに内因性であり、糖尿病などの指標とされている
血漿エリスリトール濃度が高いのは、高血糖や血糖調節障害による内因性が主な原因といえます。(Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 May 23;114(21):E4233-E4240 ; Diabetes. 2013 Dec;62(12):4270-6 ; Ann Transl Med. 2020 Mar; 8(5): 199 ; Diabetes. 2016 Apr;65(4):1099-108)
よって、血漿エリスリトール濃度は、糖尿病などの指標(マーカー)として参考にされることがあります。
また、今年(2023年)に発表されたエリスリトールについてまとめた研究では、血漿エリスリトール濃度が高いのは、糖尿病などの疾患と関連があるが、明らかにこれは食事由来のエリスリトール摂取では説明できない、としています。(Nutrients. 2023 Jan 1;15(1):204)
つまり、内因性によるものが強い、ということになります。
この上で、もう一度、今回の新しい論文を見ていきましょう。
今回の新しい研究も血漿エリスリトール濃度についてのみ言及している
今回の新しい研究では、何度も言いますが、食事由来のエリスリトール摂取量の影響ではなく、血漿エリスリトール濃度の影響と副作用について記述されているにすぎません(Nat Med. 2023 Feb 27. doi: 10.1038/s41591-023-02223-9)。
しかし、研究者らは、高濃度のエリスリトールが血栓の形成に働くことを理由に、無理やり、食事由来のエリスリトールが心血管疾患に関連するとしているのです。(これはNature編集者らの査読が甘いのではないか、と思いました。)
彼らは、その理由に、健康な人でさえ、30gの高用量のエリスリトールを摂取すると、一時的に摂取してから数時間は1000倍高い血漿濃度に上がったことや、数日間はエリスリトール濃度が上昇していたことなどをあげており、これは血栓を形成するには十分な濃度であるからだ、としています。
しかし、1日平均30gのエリスリトールを続けて摂取する人はごくまれであり(論文では一部のアメリカ人がそれぐらい摂っているとしている)、また、以前の動物による安全性試験では、食事由来の高用量のエリスリトールを摂ったラットでは8週間血漿エリスリトール濃度が高い(20~60倍)ままであったが、体重、肥満、耐糖能に差はなく、生理的な上昇で、良性であったことを報告しています。
とはいえ、いずれにしても高濃度の血漿エリスリトールレベルが続けば、当然血栓形成に影響を与える可能性はありますが、それはそもそも糖尿病で循環エリスリトールレベルが高値だったり、または極端な過剰摂取(30g/日を毎日摂取)でない限り、ありえないと思います。
つまり、血漿エリスリトール濃度が高いと、心臓発作や脳卒中リスクが約2倍増大するという、仕組みは、
- 肥満、脂肪過多、血糖調節障害、糖尿病などがある
- それが原因でペントースリン酸経路が亢進し、代謝産物のエリスリトール(内因性)が過剰に合成される
- 血漿エリスリトール濃度が上昇する
- 循環エリスリトールレベルが増大することにより、血栓形成のリスクにつながる
という流れだと思います。
もちろん、ここに外因性の食事由来のエリスリトールを大量に摂ってしまえば、それに拍車をかけてしまう可能性があることは言うまでもありません。
動物実験で使われるエリスリトールの量は、食事量の10%という膨大な量であり、この場合、確かにラットの糖尿病や心血管疾患リスクを上げますが、人間の食生活では現実的にありえないものです。
まとめと見解
- nature medicineに掲載されて話題になっている、今回の新しい研究は、あくまでエリスリトールの血中濃度が高いことが問題で、心臓発作や脳卒中のリスクが約2倍に増大するのであり、食事由来のエリスリトールと関係しているとはいえない。
- にもかかわらず、研究者らは、結論として食事由来のエリスリトール摂取に警鐘を鳴らしている。
- 過去の研究を見ても、血漿エリスリトール濃度が高いことは、病気が原因でおこる内因性のものであり、外因性である根拠はない。
- 常識的なエリスリトールの摂取量であれば、まったく問題ない。むしろ、甘味料の中では最も安全であるといってよい。
- とはいえ、いうまでもなく、平均摂取量30g/日のような過剰摂取は、気を付けるべきである。
- 糖尿病の方も、すでに血漿エリスリトール濃度が高い可能性はあるが、大量摂取しない限りでは、食事由来のエリスリトールによる影響は(今のところ)無いのではないか。
以上、ご参考までに。
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(記事:(株)コミディア・吉冨信長)