『ビタミンCとデヒドロアスコルビン酸』
- 2021/7/11
ビタミンCはアスコルビン酸のL体のことで、壊血病の予防因子として知られています。壊血病(=スコルビン)を引き起こさない(=ア)ことから「アスコルビン酸」という名前になっています。
アスコルビン酸の酸化型であるデヒドロアスコルビン酸も、アスコルビン酸と同様に、生理的にビタミンC活性があります(Redox Biol. 2016 Apr; 7: 8-13)。
各組織の還元酵素などによって容易に還元されアスコルビン酸に代謝されるからです。 このデヒドロアスコルビン酸はその名前(=酸化型)から悪玉のように誤解されてしまいがちなのですが、(そもそも悪玉のように言っているのはこの日本だけです)、生化学の基礎を知っている人にとっては、ビタミンCの別の形体としてしかとらえられていません。
酸化型といってもデヒドロアスコルビン酸は他のフリーラジカルよりも反応性がとても低いのです(Annals of the New York Academy of Sciences ,01 Sep 1975, 258:231-237)。
もう一つよくある誤解ですが、ビタミンC濃度が最も高い組織は「副腎」とよく言われています。が、実際には脳の神経系の細胞や脳下垂体が最も高い濃度を維持しています(Ann N Y Acad Sci. 1975 Sep 30;258:103-18)。(もちろん副腎も高濃度です)
〇各組織のビタミンC濃度(mg/100g 湿重量)
- 血漿 0.4~1.0
- 骨格筋 3~4
- 肝臓 10~16
- 副腎 30~40
- 脳下垂体 40~50
ビタミンC濃度が高いこの脳組織に、ビタミンCを送り届けるには、デヒドロアスコルビン酸の形態が必要なのです。 なぜなら、アスコルビン酸では血液脳関門(BBB)を通過するのが困難で、一方、デヒドロアスコルビン酸は脳に容易に入るからです。
BBBを通過したデヒドロアスコルビン酸は、その後きちんと還元され、アスコルビン酸の形で脳組織に保持され、正常なビタミンC活性が施されます。
アスコルビン酸はSVCT1やSVCT2というナトリウム依存性の輸送体を介して吸収されますが(Nature. 399:70-5, 1999)、デヒドロアスコルビン酸はGLUT1、GLUT3、GLUT4のようなブドウ糖輸送体を利用して吸収されるためです(Nature.364:79-82, 1993)。
デヒドロアスコルビン酸の方は、ブドウ糖と構造が類似しているため、このようにGLUTというブドウ糖輸送体を利用できます。
別の言い方をすれば、デヒドロアスコルビン酸とブドウ糖はGLUTへの吸収において常に競合します。そして、血液脳関門では主にGLUT1が発現されているため、ここを通じて、ブドウ糖やデヒドロアスコルビン酸が吸収されています。(アスコルビン酸の形態ではここを通ることが基本的にできません。)
つまり、高血糖の状態では、デヒドロアスコルビン酸の吸収を阻害するため、注意が必要です(Am J Nephrol. 2005 Sep-Oct;25(5):459-65)。
また、インスリン抵抗性においても同様にデヒドロアスコルビン酸の吸収を阻害するかもしれません(Endocrinology. 1998 Jan;139(1):51-6)。
普段の食事の中では、デヒドロアスコルビン酸を意識して摂取するようなことはしなくていいです。なぜなら、言うまでも無く、ビタミンC食品の多くが、アスコルビン酸/デヒドロアスコルビン酸の比率が高いからです。そもそも歴史や進化の流れで、私たちの体は、ほとんどが還元型アスコルビン酸の多い食品を摂ってきているため、それに従うのがベターだといえます。
まとめると、ビタミンCの酸化型であるデヒドロアスコルビン酸は、大した毒性はなく、むしろ脳に送り込む形態として必要です。ただし、高血糖に注意しないと、吸収が阻害されます。以上、参考にしてみてください。